失われた風景

Googleの出しているPicasa3というソフトで、撮り溜めた写真を整理していたところ、
もう見られなくなってしまった風景が出てきました。

松本は蔵の多い街ですが、私の中でこの蔵は特別な存在感がありました。
均整なたたずまいとその繰り返し、使い込まれた年月だけが醸し出す存在感。
観光地からもはずれ、住宅街の中にひっそりとあったこの蔵を知っていた人は
それほど多くなかったかもしれません。
早朝、自転車で水系巡りをしていて、この蔵に出会ったときの衝撃は忘れられません。
松本に引っ越してきてからしばらくこの近所に住んでいたのですが、
先日見に行ったら半数以上が取り壊されてしまった後でした。

いつか大物になったらこの蔵を改修して、一棟ごとに工芸や陶芸、食べ物屋などが入る
観光スポットを提案できればと勝手に思っていたのですが、残念です。
私でなくても、誰かが提案してこの蔵を守って欲しかったと思います。
取り壊した持ち主にもきっとそれなりの理由があり、思うところもあるのでしょうが、
失われた時間の蓄積の大きさは他の建物では埋められない穴のように感じます。

以前松本で、敬愛する建築探偵・藤森照信氏の建築物保存のフィールドワークがあり、
その講演で、カフカの『変身』になぞらえて、

『建物がなくなるということは、昨日までの自分の世界の一部が変わってしまうこと』
という話をして下さいました。

そして、我々設計士の仕事は世界の一部を造ったり守ったりすることだと教えられました。
今回振り返ってみて、私は自分に力がないと決め込んで、何もしていなかったことに気づきました。
この建物についてもっと深く知ったり、せめてブログで紹介するなり、勝手に提案を作って持ち込むなり、
何か出来ることがあったのかもしれません。

One Response to 失われた風景

  1. Pingback: shift_one のブログ » リベンジ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>